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七回忌に
2017年 春 宍戸大裕
東日本大震災から六年がすぎ、七年目を迎えました。被災した動物と人の姿を映画「犬と猫と人間と2 動物たちの大震災」にまとめ、完成披露試写会を開いてから四年がすぎました。映画に映した舞台も人も、僕自身もかわりつづけています。その一端を、七回忌のこの三月に書き伝えます。
1.宮城県石巻市で出会った人と動物たち
・アニマルクラブ石巻(代表・阿部智子さん)
犬4頭、猫90匹余りの保護動物がいます。月に1~2回の里親探し、毎週木曜日の不妊予防センターの開所など、地域の犬猫たちの保護や啓発活動にかわらず精力的に取り組まれています。
・磯崎さんご夫妻
自宅があった場所に新しく家を建て、プレハブの店舗も再建。亡くなったコロスケのお骨を庭に埋めなおされました。その上に、仔犬の頃のコロスケによく似た石づくりの置物が置かれ家族を見守っています。脇にはコロスケが生前親しんだ金木犀の苗木が植えられました。猫のクーコは20歳を超え、ますます夫妻になついているそうです。
・小野さんご夫妻
新しく建てられた家に、昨年10月知人を通して仔犬の「はる」を迎えられました。多頭飼育の家で飼育放棄されたはるは、当初人間不信が強かったそうですが小野さん夫妻に迎えられてからすっかり安心し、にぎやかに家の中を遊びまわっているそうです。
・小暮榮一さん(お好み焼き屋のマスター)
復興住宅へ移住されました。猫のみーちゃんが2016年4月に急死し、寂しさとショックの内にありました。現在は新たなノラ猫を部屋に迎え、すこしずつ慣れはじめているところです。
2.福島県で出会った人と動物たち
・NPO法人SORA(代表・二階堂利枝さん)
犬21頭、猫21匹の保護動物がいます。3名の常勤スタッフと、県内外から訪れる多くのボランティアに支えられ運営しています。2014年以降、犬4頭が里親に譲渡され、6頭が飼い主の元に帰り、6頭が亡くなりました。
2015年11月、今野富枝さん宅のチビタは福島市内に建てられた今野さん宅へ帰り、一緒に暮らすようになりました。しかし持病の脳障害が悪化していたチビタは、翌年2月、今野さんご家族に見守られながら息を引き取りました。
・LYSTA~動物たちに光と再生を。(代表・鈴木理絵さん)
犬15頭、猫100匹余りの保護動物がいます。猫の半数が原発事故による被災動物、半数がいわき市を中心とした地域猫活動の中で保護されました。3月には保護猫カフェohana(オハナ)をいわき湯本駅前にオープン。猫27匹が里親との出会いを求めのびのび暮らしています。店の収益を保護活動に活用されています。
警戒区域で保護された犬のユウは、福島市内に家を建てられた飼主の太田さん宅へと帰り、ともに暮らしています。
・希望の牧場(代表・吉沢正巳さん)
320頭近い牛を生かしつづけています。やまゆりファームとの連携は2014年10月に破綻しましたが、牛の飼育はかわらず吉沢代表やスタッフが中心となって担われてます。エサの藁集めや、運営のための募金活動、吉沢さんによる街頭宣伝や講演会など牛を生かすための献身的な努力がつづけられています。
やまゆりファームとの決裂の原因については双方の主張がありますが、現在に至るまで牛を飼養し、生存のための努力をつづけてきたのは希望の牧場です。
ここからは、僕の個人的な思いです。
やまゆりファームは「牛の保護活動」の実体を2年半に渡り失っていることから、正式に希望の牧場へ牛の飼育をお願いし、解散・清算の手続きを取ってもらいたいと願います。
震災当時、岡田さんによる動物保護の行動に感銘を受け、敬意を抱いた僕は、やまゆりファームの一員として牛を生かす試みに賛同し、参画しました。その活動の中で、岡田さんと袂を分かつにいたりました。袂を分ったいまでも、岡田さんが牛を生かそうとした当初の思いと行動に感銘し、敬意を抱いています。だからこそ、牛がいまも牧場で生存していることについて、これまでの活動について、責任ある態度を表明し、行動してくれることを願います。過去は変わることはなくても、きょう、そしてあしたは変えられると信じます。
「傷のゆくえ」
今年の三月十一日、石巻の磯崎さんご夫妻が再建した八百屋を訪ねました。店に入ると左手にレジがあり、そこにとし子さんがいて、僕を見るなりの第一声、「あらぁいらっしゃい!その節はお世話になりました」。その第一声に心奪われているとつづけて「ほらお父さん、宍戸さん3・11だからわざわざ寄ってくれたよ」と、洋一さんを呼んでくれるのでした。四年以上の仮設店舗での営業を終え、震災前にあったとおなじ家の前にプレハブの店を持ちなおし営業をはじめたふたりは本当にあかるく朗らかに、僕に見えました。
「その節は」という言葉と、「わざわざ寄ってくれたよ」という言葉に、僕はとし子さんの変化と僕ととし子さんとの間にながれる関係の変化を感じていました。
とし子さんは先ごろ、あるテレビ局から震災にあわせて取材したいという依頼があったものの、断ったのだ、ということを教えてくれました。「傷をえぐられるようで、もう新しく語るのは嫌なのね」「前に話した映像を使ってくれるのは構わないのでそれ使ってくださいって、言ったの」と。その言葉を僕はそうですね、そうですねと受けながら、とし子さんの思いを理解できるし、共感すらできると感じていました。
ご夫妻との出会いは、コロスケの取材がはじまりです。ふたりにとって僕は「傷をえぐる存在」であっただろうし、コロスケのことを忘れさせてくれない人であったと思います。でも、出会ってから5年半余りの時間は取材とは別の時間もありましたし、それは僕のひとりよがりな思い込みとも言えないだろうと、感じるのです。
季節めぐり、人は生きていきます。くりかえされる朝と夜のなかで、めくるめくもの。「傷がなおる」、ということを思うとき、傷ついた記憶もその跡も「なおる」ことの中にふくみこまれていると感じます。傷はなくなることなく、かたちを変えてある。はじまりのかたちはかたちを変えて、伸び縮みし、狭まり広がり、破れまた紡ぎしながら、かたちを変える。
「出会ったこと」は「無かったこと」にはならず、傷もまた、生傷にかさぶたができ、かさぶたも取れてかすかな皮膚の色の違いにのみ、傷の痕跡がのこる。そして痕跡が消えてからあとも、いたみの記憶はかたちをかえてともにあることを、この六年が教えてくれるように僕は思えます。
七回忌を迎え、震災で出会い、通った場所から離れる時間が長くなりつつあることに気づきます。日常のあらたなあれこれに日々身をゆだねているうちに、身体ばかりか心も離れてしまって、時折戻り立つと離れていた時間の長さばかりが問われるようで、恥ずかしくなり、顔を俯けていても、気づくとまた日常のあれこれに戻っている自分がいます。
変わることはさびしいですが、季節のめぐりはゆたかです。変わることを認め、肯定したいと思います。めぐりあった傷のゆくえを(人のそれも、みずからのそれも)いつまでも見届けたいと思います。